原題: Alleged Jabber Zeus Coder ‘MrICQ’ in U.S. Custody
米司法当局、ジャバーゼウスマルウェア開発者「MrICQ」を逮捕
米司法当局は、銀行情報を狙った悪名高いマルウェア「ジャバーゼウス(JabberZeus)」の開発者として知られる「MrICQ」ことユーリ・イゴレビッチ・リブツォフ氏をイタリアで逮捕し、米国にて拘束しました。本記事では、この事件の背景や技術的な詳細、そしてサイバー犯罪に与える影響について解説します。
主要なポイント
- 「MrICQ」ことユーリ・リブツォフ氏の逮捕:2012年に起訴されていたリブツォフ氏は、イタリアで逮捕され、米国に引き渡されました。彼はジャバーゼウスグループの重要なメンバーであり、マルウェアの開発と資金洗浄に関与していました。
- ジャバーゼウスマルウェアの特徴:ジャバーゼウスは、銀行のログイン情報を盗み出すカスタム版のZeuSトロイの木馬を使用し、被害者が金融機関のウェブサイトでワンタイムパスコードを入力すると即座に通知を受け取る仕組みを持っていました。
- 「マン・イン・ザ・ブラウザ」攻撃の先駆け:このマルウェアは、被害者のブラウザ内で送信されるデータを密かに傍受・改ざんする「マン・イン・ザ・ブラウザ」攻撃を早期に実装し、小規模から中規模の企業を標的にしていました。
- 資金洗浄とマネーミュールの活用:盗んだ資金は複雑なワイヤートランスファーを通じて洗浄され、多数の「マネーミュール」(資金移動を担う人物)が関与していました。これにより追跡を困難にしていました。
- 関連するサイバー犯罪組織と人物:ジャバーゼウスのリーダー「Tank」ことヴィアチェスラフ・ペンチュコフは2022年に逮捕され、18年の刑を受けています。また、グループは「Evil Corp」と呼ばれる更に大規模なサイバー犯罪組織へと発展しました。
技術的な詳細や背景情報
ジャバーゼウスは、ZeuSトロイの木馬のカスタム版を基盤とし、特に「Leprechaun」と呼ばれる機能が革新的でした。これは被害者が金融機関の偽装サイトで二要素認証のワンタイムパスコードを入力すると、そのコードをリアルタイムでハッカーに通知する仕組みです。具体的には、被害者のブラウザに表示されるHTMLコードを改ざんし、認証情報を傍受しました。
さらに、「バックコネクト」機能により、ハッカーは被害者のPCを経由して銀行口座にアクセスし、被害者のIPアドレスを使って不正操作を行いました。これにより、当時のオンラインバンキングのセキュリティを容易に突破していました。
ジャバーゼウスの開発者たちは、ZeuSのオリジナル作者エフゲニー・ボガチェフとも直接連絡を取り合い、ボガチェフはFBIの「最重要指名手配犯」として3百万ドルの懸賞金がかけられています。
影響や重要性
ジャバーゼウスの活動は、数千万ドル規模の被害を米国の中小企業にもたらし、オンラインバンキングの安全性に対する警鐘となりました。特に、二要素認証を突破する手法は、セキュリティ対策の根本的な見直しを促しました。
また、この事件は国際的な協力の重要性を示しています。リブツォフ氏の逮捕は、イタリアと米国の司法当局が連携して行った成果であり、サイバー犯罪に対するグローバルな対応の必要性を浮き彫りにしました。
さらに、ジャバーゼウスのメンバーが後に「Evil Corp」というより大規模な犯罪組織を形成し、Dridexトロイの木馬を使った攻撃を展開していることから、サイバー犯罪の進化と連鎖的なリスクも示唆されています。
まとめ
ジャバーゼウスマルウェアの開発者「MrICQ」ことユーリ・リブツォフ氏の逮捕は、長年にわたるサイバー犯罪捜査の重要な節目となりました。彼らが用いた高度な技術は、オンラインバンキングの脆弱性を突き、多くの企業に甚大な被害を与えました。
本事件は、サイバー犯罪対策における技術的理解と国際的な法執行機関の連携の重要性を改めて示しています。今後も進化するサイバー脅威に対して、企業や個人は最新のセキュリティ対策を講じる必要があります。





